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多くの留学生は日本で就職するために日本語能力試験(JLPT)にチャレンジをしています。
特に就職後に社内外において日本語でコミュニケーションが求められる職種では、JLPT N2以上を採用選考基準としている企業も多いです。
N2の壁を越えるための効果的な学習法?
漢字圏と非漢字圏それぞれの課題と対策?
日本語+G検をどのように就職活動に活かしたら良いのか?
について、G検専任アドバイザーの片山ゆかり先生にインタビューしました。
片山ゆかり先生は、これまで5か国6か所に約20年間滞在し、海外大学の客員教授を務め、英語教育・日本語教育研究に携わってきました。
インタビューを通して、留学生が日本語力、社会人基礎力を身に付け、日本で活躍するためのヒントが見つかるのではないでしょうか?

片山 ゆかり Katayama Yukari
上智大学英文科卒業後、渡英。英国レディング大学応用言語学修士取得。
海外での勤務・滞在経験は、イギリスでの7年に及ぶ留学・研究生活を含めると、これまで5か国6か所(イギリス、マレーシア、ベルギー、アメリカ、中国上海・北京)約20年に及ぶ。
その間、大学英語教育のテキスト出版や国際マナー、日本文化、多言語社会のコミュニケーションに関する講演実績多数。 上海外国語大学賢達経済人文学院日本語学科客員教授、2016年より上海理工大学日本文化交流センター名誉センター長を務める。 現在、お茶の水女子大学の博士前期課程で、日本語教育を研究している。
著書
Introduce Japan in Easy English (2016), Tokyo: Asahi Press(朝日出版)
English Once More (2014), Tokyo: Asahi Press (朝日出版)
First Primer (2011) Tokyo: Nan’un-Do Press (南雲堂出版)
English ABC (2007) Tokyo: Nan’un-Do Press (南雲堂出版)
Primer for English Writing (2005) Tokyo: Nan’un- Do Press (南雲堂出版)
English Primer (2004) Tokyo: Nan’un-Do Press (南雲堂出版)
Step-Up English (2002) Tokyo: Nan’un-Do Press (南雲堂出版)
私自身が英語に大変興味があり、英語の教員をしたのち、イギリスの大学院で言語学を勉強しました。卒業後、日本の学校法人が経営するロンドン市内の高校に就職しました。
英語を指導していましたが、中には成績が伸び悩む学生が数名いて、本人がどんなに努力してもなかなか伸びませんでした。
学生が受けた全科目の成績に目を通しますと、英語と現代国語の成績に高い相関関係があることに気づきました。
現代国語の成績が安定している学生は英語も伸び、現代国語の成績にムラがある学生は伸び悩むという傾向にありました。「あ、英語力には、日本語力も関係しているはずだ!」と直感的に思いました。
私たちの固定観念では、英語が伸び悩んでいる人たちは努力が足りない、記憶力が悪い、単語と文法を地道に覚えて勉強していないという思い込みがあります。
実はもっとその根底には英語であろうが、日本語であろうが、言語力を支える能力が存在しているのではないかと考え始めました。
それで、母語と外国語の関係についてずっと一筋で研究してきました。
留学生が日本で就職するために、日本語能力試験(JLPT)に合格する必要があると言われていますが、日本語能力だけでは、就職活動が難航するケースも多いです。
日本語能力に加え、社会人基礎力(コミュニケーション能力等)も必要です。そのため、日本語+G検両方の学習を通して、就職活動に役立つ知識を身につけ、就職活動を有利な方向に導く必要があります。
日本語の場合、特に非漢字圏の学習者には、漢字という大きな壁があります。
まず文字の違いという壁を乗り越えなければなりません。
例えば、日本人が英語を勉強する時、アルファベットは非常に形が単純で、文字数も少ないので、文字の壁はそれほどありません。
壁があるとしたら、音の壁、つまりどうやって正確に音を掴むかという壁があります。アルファベットそのものが音で表していくので、C、A、Tと並べて、Catという音で意味を表します。
日本語の場合、音の壁を乗り越えるよりも、漢字の壁、仮名と漢字が組み合わさった複雑な書記体系の壁を非漢字圏の学習者が乗り越える方がもっと大変だと考えます。

実は、私の現在の研究調査の対象者は、なかなかN2に受からないN3保持者をターゲットにしています。
どうしてN2の壁を突破できないのか、漢字圏・非漢字圏に分けて原因を追究しています。
皆さんは、漢字圏だったらN2は楽勝だろうと思っているかもしれません。
実はN2の壁を突破できない漢字圏の学習者も大勢います。突破できない理由は漢字圏・非漢字圏によって、それぞれ違います。その理由は明らかになりつつあります。
まず、漢字圏・非漢字圏に共通している課題は、
N3レベルの基礎が固まっていないのに、N2に挑戦し続けている学習者が結構いることです。
調査で話を聞いていると、まだ日本語能力試験のどの級も合格していないうちに、N2の試験を受けたと話す人がいました。理由を聞いたら、「N2がほしいから」、「就職に有利だから」、「N3をいちいち勉強して、段階的にN2を取っていては、就職に間に合いません。」という答えが返ってきます。
しかし、JLPTのN2はN3レベルの上に積み重ねて、難易度を上げていくわけですから 、N3レベルの土台が固まっていないうちは、N2の語彙をたくさん勉強し、問題集を解いて、何度チャレンジしても、土台がぐらぐらしていては、合格に届きません。
ですので、まずN3レベルの復習をしっかりすることから始めてみてください。まさに、急がば回れです。
調査で日本語読解のテストを行った結果、
非漢字圏の学習者は漢字圏の学習者より、問題を読み込むために平均して約2倍ちかくかかることが分かりました。
面白いのは、非漢字圏の方にくらべ、漢字圏の方の得点が必ずしも高いというわけではありません。
蓋をあけてみると、漢字圏・非漢字圏のどちらの平均点にも違いは、ありませんでした。N3レベルでは、文章中のひらがなの割合が、だいたい6割、漢字3割、残りはカタカナなどで構成されています。したがって、漢字圏の学習者に必ずしも有利とは限らないのですね。
漢字圏の学習者は問題を読むスピードが速いが、
問題の読み飛ばし、早合点で点を落としています。
意味のわかる漢字を繋げて推測し、自分でストーリーを作り上げている場合が多いです。それがうまくはまった場合は正解になりますが、はまらない場合は不正解になってしまいます。
平仮名を読み飛ばすことも多いですが、文法の重要な点は平仮名で表記されていますので、読み飛ばすと大きく読み外す可能性があります。
文字を見て漢字がわかると、安心してしまい、読めたと思い込んでしまう部分が生まれます。
読みが正確さにかけたり、深まらない原因はそのあたりにありそうです。
一方非漢字圏の学習者は読むスピードが遅いが、正解を導く力はついています。しかし、テストなどでは、時間切れになって最後まで問題に取り組めず、点を落としてしまうこともあります。
非漢字圏の学習者について、いろいろ調査して、見えてきたのは、漢字の知識と、漢字を視覚的に捉える反射神経が、漢字圏の学習者とそれほど変わらないことが分かりました。
複雑な漢字を判別するのに、非漢字圏の学習者は時間がかかりそうだと思われがちだが、N3ぐらいのレベルになってくると、そんなに大差はありません。
どこで差が出てくるかと言いますと、漢字を見て、言葉の意味を思い出すスピードです。その点は、やはり漢字圏と非漢字圏の間で、大きな開きがありました。
非漢字圏の学習者は、字を見て、形は分かりますが、そこで意味を思い出すのに、倍以上の時間がかかります。
非漢字圏の学習者が日本語の文章を読む時、時間がかかるのは、単に漢字がわからないからではなく、文字を見て識別し意味を思い出すという処理に手間取っているのが大きな理由だと考えられます。
時間を費やしている間に、最初に読んだことを忘れてしまい、また最初に戻って確認する、というのを繰り返して、何回も何回も読み返します。
最終的に全部を理解するのに時間がかかりすぎてしまいます。そこを克服しないと、N2は文字数も漢字も増えますので、なかなかN2を突破することが難しくなります。
ここから漢字圏、非漢字圏それぞれの課題が見えました。
漢字圏の学習者が克服すべきこと漢字に頼りすぎないことです。それからひらがなの処理を文法の知識と共に確かにすること。
そして、非漢字圏の学習者が克服すべきは処理スピードを速くすることが重要です。
漢字圏の学習者は文法をしっかり押さえて、平仮名、外来語を克服することが重要です。
N2、N1とレベル上がっていくにつれて、漢字の量が増えていきます。文章に占める漢字の割合が増えていけば行くほど、漢字圏の人にとっては、有利になってきます。
平仮名・片仮名の処理を速くして、平仮名の処理がかかわる文法をしっかり押さえることで、漢字圏の学習者はN2の壁を楽々突破できると思います。
そのために効果的なのは、教科書などの音読です。文字を見ながら、大きな声に出して読んでいくという単純な方法ですが、日本語のリズムが身につくことで、ひらがなの処理も速くなります。リズムに関係して、漢字の読みも、中国語読みではなく日本語の読みを身につけることが大事です。
非漢字圏の学習者は、短い時間でどんどん処理する訓練が必要だと思います。
N2合格が目標だからといって、N2の問題ばかり解くのではなく、時間を測りながら、まずはN3、N4の易しいと感じるくらいの読解問題を数多く解きます。そうすることで、基本的な読解の処理が速くなってきます。
私たち研究者間の用語で、自動化(automatization)と呼んでいます。漢字を見て、文脈に合った意味が自動的に思い浮かぶ処理の速さ、レベルが訓練によってだんだん早くなっていきます。自動化できるまでに、大量に文字を処理することが、非漢字圏の学習者に必要だと思います。N2が難しい場合は、少しレベルを落として、易しいものから練習していくことがコツです。

就職活動の面接官は語学力+コミュニケーション能力を見ようとしています。
キャッチボールがうまくできるか、上司の指示を正しく理解できるか、報告がきちんと正しくできるか、おそらくそのようなところも見ています。
残念ながら、現在の日本語能力試験の筆記テストでは、そのような部分は測れません。
その部分は自分で+α努力していかなければならないと思います。研究調査をしながら思ったのは、アルバイトをしている学生達が本当にコミュニケーション上手ということです。
N3レベルであっても、 滑らかな日本語で「先生、今日はお疲れ様でした」などと挨拶し、社会的に必要とされる言いまわしが上手にできています。そういう学生はインタビュー調査後に立派なお礼メールを送ってくることもあります。教室の中では学べないことをアルバイト先でも学んでいるなあと感じました。
話すことが上手にならない、就職面接がうまくできないという留学生の話をよくよく聞くと、
普段はいつも部屋でゲームばかりして、SNSで常に同胞の友人たちとやり取りしながら、日本人と交流する機会がないと嘆いています。
せっかく日本語が溢れている環境で住んでいるのに、扉を閉ざしていてはもったいない。 例えば、学校や地域には国際交流のサークルがありますので、そこに参加して交流してみるのもコミュニケーションの練習になると思います。
語学は使ってこそ上手くなります。たとえば、ピアノも楽譜を読む練習を毎日しても、一度も鍵盤に触らなければ絶対上達しません。語学は楽器やスポーツと本質的に似ていると思います。毎日走らないで、足が遅いと嘆く陸上選手はいないと思います。原則はいつもシンプルです。
G検は教室では学習しない日本語の使い方をたくさん扱っています。
例えば敬語について、教室では言葉を学びますが、
ビジネスの相手や場面に合わせてどの程度の敬語を使うのが適切なのか、これがG検の勉強で学習できます。
あまりにも丁寧すぎる敬語を使って、おかしい場合もありますし、周りの話す言葉を聞きながら、自分で調整する必要があります。
言葉だけではなく、ジェスチャーで伝える、お辞儀の深さによって敬意の表し方を変えるなど、社会言語的な知識、つまり社会で生活する中で、言葉を使っていく能力と感覚をG検がカバーしています。
だからG検を身につけると、武器になると私は思っています。G検の知識は面接でも、大変活かされると思います。例えば、お礼の仕方、敬語の使い方、話し方、聴き方は、本当に就職活動で活かされると私は思います。

私自身がイギリスで働いた経験からも言えますが、
日本で活躍するためには、日本語+αの強みを身に付けた方が良いと思います。
+αを見つけられるように、在学中に努力していくことが必要です。
在学中にG検や、いろいろな資格試験にチャレンジしたりし、アピール出来るように準備しておくこと。
自分は何をやりたいのか、日本で就職し、どんなところを伸ばしていきたいのか、しっかり見据えて、目標に向かって努力していく必要があります。
いろいろな知識を身に付けて、たとえ自分の国に帰ったとしても無駄にはならないと思います。
あとは情報収集もしっかり行う必要があります。
JASSO、就活ガイド、たくさんの情報を発信してくれています。情報弱者にならないように、少しでも就職活動を有利に展開するためには、情報収集能力必要になってきます。
それを支えるのは、やはり読解スキルだと思います。よく面倒くさいからと、日本語を読みたくない人も多いですが、文字に慣れていく努力をしていくことが大切です。
皆さんのご活躍を心より願い、そして応援しています。